過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる

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  「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」と喝破したのはカナダの精神科医エリック・バーンという人の言葉です。でも、未来が変えられるのならば、他人を変えることも出来るんじゃないかと思って、アイスクリーム業界とその周辺を往来しています。もちろんアイスクリーム業界も変えられます。
 そんな時に、日本の年間出生数が80万人以下になりそうだという厚労省の速報がありました。 このままでは、2050年に日本の人口は3300万人減って9500万人位となり、2100年には6000万人減って現在の半分になるという予測があります。
 未来もアイスクリーム業界も他人も変えることが出来たとして、子供たちが減り続ける国に豊かな将来像を描けるのかどうかという不安があります。
 戦後のアイスクリーム業界は、団塊の世代が子供だった頃に産業化をスタートし、団塊ジュニア世代が子供だった頃にキャラクター&当りくじ付きバーアイスの一大ブームとなりました。団塊ジュニアの子供たちに当るZ世代はベビーブームになりませんでした。 日本の出生数は1899年(明治32年)統計開始で138万7千人。
 戦後は1947年から第一次ベビーブームで1947年は267万8千人、1948年は268万1千人、1949年は269万6千人と現在の3倍以上の出生数でした。その後は減少傾向となり、1960年代から1970年代半ばにかけて増加に転じます。第二次ベビーブームの中で1973年には209万1千人になりますが、その後は再び減っていきます。 Z世代の第三次ベビーブームは来ません。2016年にはついに100万人を切ってしまいます。 アイスクリーム業界の進展と照合しますと、団塊世代、団塊ジュニア世代の子供の頃から成長する場面とアイス業界の場面転換が一致します。 アイスキャンデーから始まった戦後のアイス業界は、1955年にグラム社バーマシン輸入から産業化がスタートします。団塊世代が6歳から8歳です。
 1964年に東京オリンピックがあって、1967年には全国で160台のバーマシンが稼働していたという記録が残っています。戦後草創期のアイス業界を支えたのは団塊世代の子供たちなのです。 1970年に大阪万博があり、1971年に明治乳業がレディーボーデンを発売します。高級アイスの幕開けです。支えたのは団塊世代の家庭です。 1974年にはオイルショックでノベルティが100円になります。1980年頃からスーパー台頭でマルチの乱売になっていきます。 1983年にはコンビニが2万点突破、そしてアイス業界にはキャラクター&当りくじ付きバーアイスの嵐が吹き荒れます。起こしたのは団塊ジュニア。1971年から1974年生まれなので10歳位になります。 1986年にはアイスショップブーム、1990年にはバブル景気でアイスマルチも500円以上が人気。そんな時代もありました。 1994年は空前の猛暑で倉庫がカラッポ、1995年からは暗黒の10年で、2003年にアイス業界最大の問屋が破綻します。
 この期間、団塊世代は50歳前後、団塊ジュニアは30歳前後。アイスを食べない時期なのでしょうか?それとも趣味嗜好にあるアイスがなかったからでしょうか? アイス業界は特売乱売に走り、内容品質を疎かにした所為じゃないのかと疑われています。 価格の制限内で原料副原料の置き換え(ジェネリック化)で逃げる手法は危険です。味わい風味が違うと、お客様は敏感に感じ取り、怖いことに「黙って買わなくなっていきます」。売れ行きがなんだかおかしいなと思っても後の祭りです。逃げた消費者は二度と戻っては来ません。 これが、1995年から2004年までの暗黒の10年間の真相でしょう。 去年からモノ皆上がる春夏秋冬で、今年も値上げは収まる気配がありません。
 アイスクリーム業界の過去は、希望小売価格があって専売制、定価で現金商売、一律掛率で複雑怪奇なリベート体系と現物添付、そして値差補填に移行し、POS→EOSの弊害、一物二価三価四価、専用留型商品の氾濫等があります。解消されているものもありますが、色濃く残滓となっているものもあります。 かつては、メーカー、卸店に価格決定権がありましたが、現在は小売業に価格決定権があります。 それならば、オープン価格政策も一つの方向ですし、単品建値単品管理政策も考慮すべきでしょう。
 メーカーが価格決定権を持つためには、小売業をやって直接消費者に対する必要があります。ヴィトンやエルメスなどの著名ブランドが直売店で販売する手法です。 もう一つ、パナソニックの家電量販店に対するメーカー指定価格での販売です。商品の売れ残りのリスクをメーカーが負うなど、メーカーが直接販売するのと同等の条件が定められているため、メーカーが小売価格を指定しても独禁法違反にはなりません。 団塊世代は後期高齢者になり、団塊ジュニアは50歳代になります。大量消費を支えてくれた層はゾーンから外れて行きます。子供人口は減り続けます。 そんな将来が来ることは確実ですから、「アイス業界では無理」と一蹴せずに、未来と他人も変えられることを信じて、一歩踏み出してみることをお勧めいたします。
  引き続き皆さまのご支援、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

株式会社アイスクリーム流通新聞社
代表取締役社長 松本元治
2023年